水を奪い合った土地が、いま米を育てる
菊川市の米を食べるとき、私はこの町の地形を思う。牧之原台地と菊川平野に挟まれた、かつて海だった場所。隆起して陸になった土地は、古来から水に飢えていた。
江戸時代、この地域は33の村が19の領主に分割統治されていた。領主が多すぎて、河川改修すら進まない。農民たちは村の境を越えて掛川まで物資を求めた。そんな中、三浦刑部親子が加茂用水を、中条右近太夫が嶺田用水を引いた。領主の混在という矛盾を、農民たちの直訴と幕府権力で乗り越えた、その用水が今も流れている。
明治になると、牧之原台地の開拓が始まる。徳川慶喜を護衛していた精鋭隊の中條景昭、後の初代静岡県知事となる関口隆吉ら、無禄となった士族たちが入植した。原野を茶園に変えた彼らの開拓精神は、この町の産業の根になっている。
菊川市産の静岡きぬむすめは、そうした歴史の上に育つ。白米か玄米か、5kgか10kgか、秋冬か春先か——届く時期と量を自分の食卓に合わせて選べる。新米の季節に白米で炊けば、粒が立ち、甘みが引き立つ。冬から春にかけて玄米で、朝食の一杯に噛み締めるのもいい。

菊川の米は、派手ではない。だが、この土地が何度も水を引き、何度も領主の境を越えて、農民たちが守ってきた田んぼの米だ。食卓に届いたとき、その重さを感じてほしい。
選べる品種、選べる時期——食べ手の都合に寄り添う
もう一つ、菊川市産の静岡コシヒカリも同じ町の米だ。きぬむすめとコシヒカリ、品種の違いは食べ手の好みで選ぶ。コシヒカリは粘りが強く、冷めても硬くなりにくい。弁当に詰めるなら、このコシヒカリがいい。

発送時期を秋冬か春先か選べるのは、この町が新米の季節を大事にしているからだろう。秋に収穫した米を、冬の間に熟成させて春に届けることもできる。食べ手が「今、この米が欲しい」という時期に、菊川の米が家に着く。それは、かつて領主の境を越えて物資を求めた農民たちの、生活圏を尊重する姿勢の、現代版かもしれない。
