冬の仕事、水の仕事
横手盆地は、東の奥羽山脈と西の出羽山地に挟まれた断層盆地だ。年平均降雪量が793センチメートルに達する豪雪地帯。この厳しさの中で、米が育ち、水が清くなる。
私がこの町を見るとき、まず目に入るのは農業の規模だ。秋田県内で最多の総農家戸数を持ち、令和5年の農業産出額は288.8億円。稲作が中心ながら、リンゴやブドウ、ホップなども栽培される複合農業地帯である。しかし、その農業を支える基盤は、この盆地を流れる水系にある。皆瀬川、成瀬川、横手川が形成した扇状地。その湧泉地帯に位置する浅舞地域の水は、古くから知られた良質水だ。
阿櫻の純米大吟醸は、この水と、この土地の米で仕込まれる。奥羽山系の伏流水。寒仕込みという、冬の厳しさを逆手に取った醸造法。720ミリリットル瓶が2本、届く。

晩酌の時間に、グラスに注ぐと、香りが立つ。米の甘さと、水の透明感が同時に感じられる。冬の夜、暖かい部屋で飲むと、この町の冬がどれほど深いのか、改めて理解できる。
米と、その先の仕事
横手の農業は、単なる米作りではない。あきたこまちの定期便や特別栽培米も返礼品として用意されている。これらは、この盆地の平野部で丁寧に育てられた米だ。

しかし、米が米として終わるのではなく、酒になり、飯になり、家の食卓に着地する。その過程を見つめることが、この町を理解することだと私は考える。
冬の盆地で、雪に閉ざされた季節に、人々は何をするのか。米を仕込み、水を汲み、酒を造る。その営みが、この町の歴史であり、現在でもある。横手城が築かれた16世紀から、城下町として栄えた江戸時代を経て、今も農業と醸造の町として続いている。
阿櫻の純米原酒飲み比べセットも、同じ蔵の異なる仕込みを味わう機会を与える。一本は純米大吟醸、もう一本は別の仕立て。同じ水、同じ米、同じ蔵でありながら、仕込みの時期や手法で表情が変わる。その違いを感じることは、この町の職人たちの仕事の細かさを知ることでもある。
