大村湾を見守る町の、秋の果実
時津町は長崎県で最も面積が小さい町だ。だが、その小ささの中に、江戸時代の港町としての記憶と、現代の工業地帯としての活気が同時に息づいている。大村湾の南西岸に位置し、北は湾に面し、南西には堂風岳や烏帽子岳といった山々が連なる。この地形が、町の食卓に何をもたらすのか。
推したいのは、時津町産シャインマスカットだ。この町は農業よりも工業・商業が盛んで、第一次産業の比率は3%程度に過ぎない。だからこそ、限られた農地で丁寧に育てられた果実は、町の風土そのものを映している。シャインマスカットは秋口から初冬にかけて旬を迎える。粒が大きく、種がなく、皮ごと食べられる品種だ。届いた箱を開けた時、房全体の重さと、粒の透き通った黄緑色が目に入る。冷蔵庫で冷やし、食卓に出す。一粒かじると、果汁が口に広がり、甘さと適度な酸味が同時に来る。秋の夜長、家族で房を分けながら食べるのに、この葡萄ほど季節を感じさせる果実はない。

大村湾の本マグロと、季節の定期便
時津町は大村湾に面した港町だ。江戸時代には彼杵港との間に船便があり、時津街道として大名や幕府の役人も行き来した。その歴史は今も「お茶屋」と呼ばれる屋敷に残っているが、現在の時津港は高速船ターミナルとして機能し、長崎空港への玄関口になっている。
この港から届く海の恵みが、長崎県産本マグロの中トロだ。定期便で3ヶ月、6ヶ月のコースが選べる。中トロは脂が乗りながらも、赤身の風味を失わない部位。刺身で食べるなら、冷凍のまま薄く切り、少し解凍して口に入れると、脂の甘さが舌に残る。握り寿司にするなら、握る直前に常温で少し置き、脂が活きる温度で握る。漬けにして丼にするなら、醤油と砂糖、みりんで漬けた後、温かいご飯の上に乗せ、海苔と一緒に食べる。季節ごとに届く本マグロは、その時々の調理法を考える楽しみをもたらす。

秋から冬へ、果物の定期便で季節を重ねる
時津町の農業は小規模だが、その分、季節の移ろいを丁寧に追う農家の手がある。時津の果物定期便は、シャインマスカット、巨峰、みかん、不知火と、秋から冬にかけての旬の果実を4回に分けて届ける。
シャインマスカットで秋を迎え、巨峰で秋の深まりを感じ、みかんで冬の入口に立ち、不知火で冬の甘さを味わう。毎月、箱が届くたびに、台所の果物かごが入れ替わる。子どもたちは、今月は何が来るのかと待つようになる。朝食の食卓に、おやつの時間に、季節の果実が当たり前にある生活。それは、小さな町の農家が、限られた土地で、丁寧に育てた結果だ。
時津町は、長崎市のベッドタウンとして発展し、工業地帯としても機能している。だが、その片隅で、大村湾の漁業と、山間の農業は、今も町の食卓を支えている。
