島の台所、スルメイカから始まる
海士町は中ノ島を主島とする、隠岐諸島の島前に浮かぶ町だ。人口2200余りの小さな島だが、この町の食卓を支えるのは、何より日本海の恵みである。
私がこの町を見るとき、まず思い浮かぶのは、菱浦湾の景観だ。小泉八雲が『日本暼見記』で「清閑な地」と称えた、その湾から毎日、漁船が出入りする。冬の日本海は荒れるが、対馬海流の影響で「夏涼冬暖」という温和な気候に守られた島では、スルメイカが秋から冬にかけて群れをなして押し寄せる。
スルメイカの炊き込みご飯の素は、その季節の営みをそのまま家に届ける返礼品だ。届いた箱を開けると、乾燥させたスルメイカの香りが立ち上る。米を研いで、この素を加えて炊く。炊き上がると、イカの旨味が米粒ひとつひとつに染み込んでいる。のし付きで届くのは、この町が「特産品」として誇りを持っているからだろう。晩秋から冬の食卓に、島の漁の営みが着地する瞬間だ。

岩牡蠣と白イカ、季節の重ね合わせ
スルメイカだけではない。この町の海は、岩牡蠣も育てる。さざえと岩牡蠣、白イカを合わせた炊き込みご飯セットは、一つの鍋の中に、この島の複数の季節を重ねたものだ。岩牡蠣は冬から春、さざえは通年、白イカは秋から冬。それぞれの旬が異なるからこそ、セットにすることで、島の漁師たちの一年の営みが見える。

冷凍で届くため、食べたい時に炊き込みご飯にできる。朝、米を研ぎ、素を加えて火にかける。30分もしないうちに、磯の香りが台所に満ちる。白米だけでは味わえない、海の深さがある。

生きた貝、届く喜び
活さざえ2kgセットは、炊き込みご飯ではなく、生きたまま届く。冷蔵便で、さざえが動いている状態で家に着く。これは調理の手間が増すが、その分、食べ手の選択肢が広がる。塩焼きにするもよし、刺身にするもよし、酒蒸しにするもよし。島で当たり前に食べられている食べ方を、本土の台所で再現できる。
海士町の漁港は複数ある。豊田漁港、崎漁港、知々井、御波。小さな島だが、各地区に漁業の営みがある。その営みが、冷蔵便という物流を通じて、あなたの食卓に届く。それは単なる「特産品」ではなく、島の人たちの日々の仕事が、家の食卓に着地することだ。
島の地形が生んだ食
なぜこの島でこれほど豊かな海の幸が獲れるのか。それは地形にある。中ノ島は北東から南西に走る山地で二分されており、外海に面する上方は地形が急峻で、海岸線が入り組んでいる。良港に恵まれた菱浦湾は、フェリーの発着地であると同時に、漁業の基地でもある。
また、この島は地下水が豊富だ。「天川の水」は環境省の名水百選に選ばれている。水が豊かだからこそ、中ノ島には100ヘクタールほどの水田があり、米の生産量も多い。スルメイカの炊き込みご飯の素も、その米があってこそ成り立つ。海と山、水と土が一つの島の中で循環している。
人口2200の小さな町だが、その食卓には、島の全てが詰まっている。
