水が自噴する土地の米
秋田県の仙北郡にある美郷町は、三つの町村が2004年に合併して生まれた町だ。その地形を見ると、米作りの理由がすぐわかる。丸子川とその支流が形成した六郷扇状地・千屋扇状地に位置し、町内各所で地下水が自噴する。特に六郷扇状地の扇端部は「水の郷百選」に選ばれるほど、水に恵まれた場所だ。
古来、この町の農業は米づくりを中心に発達してきた。戦後、田沢疏水が開通すると、かつて水の得にくかった扇状地の中央部も水田化が進み、農家の経営規模は拡大した。今日、その営みは きぬむすめ という一粒の米に結実している。

食卓に届く、その粒の立ち方
きぬむすめは、粒が揃い、炊き上がりが白く見える品種だ。届いた米を研ぐ時、粒の一つ一つが手に感じられる。水が多い土地で育った米は、吸水が均等で、炊飯器の中で膨らみ方が揃う。朝、蓋を開けた時の湯気の立ち方、ほぐした時の粒の分離の良さ——それらは、この町の地下水と扇状地という地形が、毎年毎年、積み重ねてきた仕事の痕跡だ。
白いご飯として食べるのが、この米の本来の姿だと思う。塩辛いおかずの横に、何もかけずに。秋の新米の季節、冬の保存米として、春先の古米として——季節ごとに、その米の表情は変わる。だからこそ、10kg、5kg×2袋という量は、一年の食卓を支える現実的な単位なのだ。
美郷町の米作りは、享保年間には酒造業も盛んにしていた。名水と秋田米を利用した日本酒の醸造が古くから行われ、当時の記録には酒屋が19軒あったと残っている。その同じ水が、今も、毎日の食卓の米を育てている。
