日本海と中国山地に挟まれた、果樹の町
益田市は島根県の西端、日本海に面した町だ。北は海、南は1000メートル級の山々が連なる中国山地。この地形が、果樹栽培に独特の条件をもたらしている。
朝鮮半島からの湿った風と東シナ海の風が合流するこの地は、降水量が多く、線状降水帯が形成されやすい。一見すると農業には厳しい環境に思えるが、実は果樹にとって大切なものをもたらしている。適度な湿度、昼夜の気温差、そして水はけの良い土壌。高津川と益田川が運ぶ肥沃な土が、狭い氾濫原に堆積してきた。
この町で栽培されるメロン、ぶどう、ユズ、ワサビ——どれもが、この地形と気候の産物だ。特にぶどうは、ここ数十年で益田の顔になった。
皮ごと食べる、秋の一房
シャインマスカットは、種がなく、皮ごと食べられる。届いた房を冷蔵庫に入れておけば、朝食時に冷えた粒をそのまま口に入れられる。手を汚さず、皮を吐き出す手間もない。

この品種が日本で広がったのは2000年代だが、益田の農家たちはいち早く栽培を始めた。秋口、先行予約で届く房は、その年の出来を象徴している。糖度が高く、果肉がしっかりしているのは、この町の昼夜の気温差と、丁寧な摘房・袋かけの手間があるからだ。
一房、1キロ以上。家族で数日かけて食べるのが、この町での食べ方だ。朝食のテーブルに置き、毎朝いくつか摘んで食べる。そうすると、ぶどうの甘さが日々の習慣になる。
地酒と、その器
益田の日本酒は、高津川の水を仕込み水にしている。養老瀧の特別純米酒は、原酒として瓶詰めされている。アルコール度数が高く、香りが立つ。晩酌の一杯を、ゆっくり味わう酒だ。

それを注ぐ器として、雪舟焼の徳利と盃がある。益田の陶工による手作りの酒器。片口型の徳利は、注ぎやすく、盃に注ぐ時の音が心地よい。土の温もりが、酒の温度をほどよく保つ。
この町の秋から冬にかけて、こうした器で地酒を飲む——それは、益田の食卓の一つの風景だ。
先行予約という約束
ぶどうもメロンも、この町の返礼品は「先行予約」という形をとることが多い。つまり、春や初夏に申し込み、秋に届く。その間、農家たちは摘房し、袋をかけ、糖度を高めるために手をかけ続ける。
寄付者は、その手間を信じて待つ。届いた時、その房が、この町の夏と秋を背負っていることを知る。それが、ふるさと納税という仕組みの中で、最も誠実な返礼品の形だと私は考えている。
