古座川の上流で、柚子が育つ理由
古座川町は、紀伊半島の最南端に近い山間部にある。町域の九割が山林で、平地は古座川とその支流が作った細い帯状の土地だけ。その中でも上流の平井地区を中心に、柚子が栽培されている。
私がこの町を見ると、まず地形が目に入る。海まで山が迫り、わずか一キロで海に達する急峻な地形。こうした場所で育つ柚子は、温暖かつ湿潤な気候の中で、昔から良質の材木を産してきた古座川材と同じ風土の産物だ。江戸時代には備長炭の材料となるウバメ樫が栽培され、その炭が江戸や上方の台所燃料として重宝された。今、その台所の役割を担うのが柚子だ。
紀州デコ・桃・富有柿の定期便は、古座川町を含む紀州の季節を三ヶ月かけて届ける。十月は紀州デコ(みかんの一種)、その後に桃、冬に富有柿。山あいの町だからこそ、季節ごとに異なる果実が熟す。届いた時点で食べ頃を迎えているのは、産地が季節を読んでいるからだ。冷蔵で届く果実は、箱を開けた日から台所に着地する。皮をむく手の温度で、その土地の秋冬が伝わる。

柚子酢から、ジビエまで
古座川の上流で採れた柚子は、酢やジュース、ジャムに加工される。これらは町の主要特産品だ。一方、林業の衰退に伴い、近年は新しい産業が芽生えている。江戸時代からゴーラ(杉丸太をくり抜いた木箱)を利用した和蜂の蜂蜜採取が行われており、百花蜜が新たな特産品として注目を浴びている。また、シカやイノシシを活用したジビエ事業にも力を入れている。
熊野牛の上焼肉は、この地域で育つ黒毛和牛だ。冷蔵で届く五百グラムは、家族の食卓で焼肉として消費するのに丁度よい量。山間部の牧場で育った牛肉は、古座川の水と草に育まれたものだ。焼肉のタレを用意し、炭火か鉄板で焼く。肉の脂が落ちる音と香りは、この町の産業転換を象徴している。

古座川町への寄付は、山あいの小さな町が、林業から農業へ、そして新しい産業へと舵を切る過程に参加することだ。返礼品として届く果実や肉は、その転換の現在地を、家の食卓で味わう機会になる。