海側は温暖、山側は寒冷—二つの気候が育てる野菜
印南町は和歌山県の中部、海岸寄りに位置する町だ。地形が面白い。海側は黒潮の影響で温暖、段丘地形を活かした畑が広がる。一方、山側は紀伊山地の西端で標高が高く、冬には雪も降る。この気候の落差が、町の農業を支えている。
私がこの町を見ていて感じるのは、『季節の手当てが生きている』ということだ。春先、海側の畑ではエンドウが次々と花をつける。町は市町村単位で全国トップの生産量を誇る「きぬさや」と「うすい」の産地。これらは出荷期が限られている。冷凍ものではなく、生のエンドウが家に届く喜びは、季節を食卓に引き込むことだ。
旬の野菜詰め合わせは、この町の二つの気候が一箱に詰まった返礼品だ。海側で育つエンドウ、スイカ、そして山側の冷涼地で育つ野菜が、季節ごとに入れ替わる。届いた時点で『今、印南町では何が旬か』が分かる。調理の手間も少ない。エンドウは塩ゆでで十分。スイカは切るだけ。野菜セットは、台所の『何を作ろう』という迷いを減らしてくれる。

小玉スイカと梅酒—西日本有数の産地の顔
印南町はスイカの産地としても知られている。全国に先駆けて小玉スイカの生産にシフトした、西日本有数の産地だ。小玉は、一人暮らしや少人数世帯の冷蔵庫に収まる。夏の夜、冷えたスイカを半分に割く音。その涼しさが、季節を体で感じさせる。
もう一つ、この町を代表する農産物がウメだ。みなべ、田辺に次ぐ規模で、『紀州梅干』の地域ブランド産地の一つ。梅は、塩漬けにして一年寝かせる。その間、塩と梅の汁が交わり、酸味と塩辛さが調和する。この時間の経過を、家の台所で体験できるのが梅干しの面白さだ。
梅酒の飲み比べセットは、濃厚なねり梅酒と芳醇な梅酒の二種。梅酒は、梅の香りと砂糖の甘さが氷に溶ける。晩酌の時間が、季節の果実を思い出させる。

地酒と海の幸—港町の台所
印南は古くから漁業の盛んな港町だ。印南漁港では、イサキ、アジ、タイが主流。町魚はイサキ。これらは塩焼きで食べるのが最も素朴だが、漬けにしても良い。
サーモンとカンパチの漬け、釜揚げしらすの海鮮丼は、湯浅醤油を使った仕立て。湯浅は、印南の隣町で、醤油の産地として知られている。地域の調味料が、地域の魚を引き立てる。丼として食べるのも良いが、白いご飯の上に乗せて、醤油の香りを立たせるのも良い。
地酒も、この町の台所の一部だ。紀伊国屋文左衛門や長久 旨辛は、地元で飲まれてきた酒。晩酌に、あるいは食事の時間に。酒は、その土地の水と米から生まれる。印南町の酒を飲むことは、この町の水と米を知ることだ。
