水を手に入れた町の米
豊郷町は、滋賀県の東部、犬上川の扇状地に広がる低地帯だ。起伏のない平坦な土地は一見すると農業に適しているように見えるが、この町の歴史は水との闘いそのものである。
明治時代だけで13回の干ばつが襲い、特に1909年の大旱魃は甚大な被害をもたらした。水利に恵まれない土地で、犬上川からの用水の最下流に位置する地域の農民たちは、農業だけでは生活できず、商業や出稼ぎで生計を立てざるを得なかった。その苦しさが、やがて近江商人を生み出し、伊藤忠商事や丸紅の創業者を輩出することにもなった。
しかし1910年、村岸峯吉らの指導下で、イギリスから導入した「コンケロル式離心動ポンプ」による蒸気動力の揚水事業が竣工した。これは日本初の試みだった。その後、電気動力への転換、そして1946年の犬上ダムの完成によって、豊郷は有史以来の用水の悩みから解放された。
今、その豊かな水と肥沃な土が育てるのが、みずかがみの無洗米だ。特A受賞歴を持つこの米は、水が潤沢になった土地だからこそ、その真価を発揮する。無洗米なので、研ぐ手間も水も最小限で済む。届いたその日から、炊飯器に入れて火をつけるだけで、あの苦闘の歴史を経た水と土の恵みが、白く炊き上がる。毎日の食卓に、この町の歴史が静かに着地する。

近江牛—扇状地の牧草地から
同じ扇状地で育つのが、近江牛のすき焼き用肉だ。肩ロースとモモの組み合わせは、すき焼きの鍋で白菜や豆腐と一緒に煮込むと、肉の旨味が汁に溶け出し、野菜に染み込む。冬の夜、家族で囲む鍋の中で、この町の牧草地が育てた牛が、ゆっくりと火を通される。

焼肉の3種盛りなら、カルビ・赤身・霜降りの違いを焼きながら味わえる。夏の夜、炭火か卓上コンロで焼く時間は、肉の脂が落ちる音と香りが、台所から食卓へと広がる瞬間だ。
発酵の手—味噌という日常
米と肉を支えるのが、びわこみそだ。無添加の米みそ、3kg。これは一年分の味噌汁の量である。朝の一杯、夜の一杯。毎日の食卓に欠かせない発酵食品が、この町の手で作られ、家に届く。味噌汁の具に豆腐を入れるとき、その豆腐の隣には、すき焼きで煮た同じ豆腐の記憶がある。
豊郷町の返礼品は、決して華やかではない。だが、水との闘いを経た土地が、今、毎日の食卓を静かに支えている。その事実こそが、この町の顔である。