天竜川が運ぶ、春早い村の米
長野県の南端、愛知県と静岡県に接する天龍村。東西11.4km、南北9.9kmの不整形な地形は、四囲を800メートル級の山に囲まれた純山村だ。村の中央を天竜川が南流し、その支流が造るV字渓谷の中に集落が点在している。
私がこの村を見ると、まず思うのは「水と傾斜の村」だ。年総雨量が2200ミリメートルを超える、やや沿海型に近い気候。天竜川から離れるに従って標高差からの温度変化は目立つ。そうした地形と気候が、この村の農業を形作っている。
天龍村のこしひかりは、そうした風土の中で育つ。訳ありという表記は、見た目や粒の揃いの話だろう。だが食卓に着地する時、そんなことは関係ない。炊きたての湯気の中で、米粒の一つ一つが立つ。秋から冬へ向かう季節、温かいご飯の上に、村の冬祭りで食べるような漬物や、地元の味噌を使った汁をかける。そういう食べ方が、この米には似合う。

春告げる村の、もう一つの食卓
天龍村は「信州に春を告げる村」をキャッチフレーズにしている。長野県で最も温暖な土地だからだ。いち早く梅や桜が開花する。その春の訪れを、食卓でも感じさせるのが信州サーモンの切り身だ。

冷たい天竜川の支流で育つサーモンは、刺身用の切り身として届く。春先、新しい季節の始まりを感じさせる食材だ。白いご飯の上に、薄く切ったサーモンを乗せ、醤油をかける。あるいは、村の温泉で温まった後の夜食として、冷えた身体に優しく着地する。
秘境駅と温泉、村の奥行き
龍泉閣の宿泊券は、平岡駅に併設された施設だ。飯田線の駅が5つある小さな村だからこそ、駅と温泉が一体になった空間が生まれた。1泊2食付きで、地産物販売ブースも併設されている。
村の食卓を知りたければ、この宿泊を通じて、季節の定食や、地元で育つていざなすなどの名産を、村の人たちと同じ時間に食べることになる。秘境駅と呼ばれる駅から、村の奥へ向かう飯田線の旅。その終着点で、天龍村の春と冬、山と川が育てた食べ物に出会う。
