山の奥、湯の音
山北町に入ると、すぐに視界が変わる。町域の九割が森だ。丹沢山地の懐に抱かれた土地で、人の暮らしは川沿いの細い帯状に収まっている。その奥へ、さらに奥へ進むと、山肌から湯が湧く場所がある。
中川温泉の宿は、そうした山奥の湯処だ。平日の夜、二人で泊まり、朝まで温泉に浸かる。食事も付く。都市から遠く、携帯の電波さえ定かでない場所で、ただ湯に浸かり、山の静寂を聞く。そういう時間を買う返礼品である。

山北の温泉は古い。中川温泉という名で知られ、この町の奥深さを象徴する存在だ。丹沢の山々が雨を集め、地下で温められた水が地表に出てくる。その営みは、この町の地形そのものが生み出したものだ。
大野山の牧草地を見下ろす夜
もう一つの泊まり方もある。グランピングの施設は、丹沢湖の近く、開けた場所に設えられている。テント泊だが、ベッドと調度が整っている。素泊まりなので、自分たちで食事を用意するか、持ち込むか、町の食べ物を探すか——そうした自由度がある。

大野山は、かつて県営の牧場があった山だ。今も牧場は営まれている。その山を眺めながら、夜を過ごす。朝、目覚めると丹沢湖が見える。1978年、三保ダムの完成で誕生した人造湖だが、今ではこの町の風景に溶け込んでいる。
山北町への寄付は、こうした「泊まる」という行為を通じて、町の奥行きを体験することになる。観光地としての山北ではなく、生活者としての山北を知る。そのための返礼品だ。
