多摩川の谷口に根ざした酒造り
青梅という町を知るには、その地形を見ればいい。関東山地から武蔵野台地へ流れ出す多摩川が、この町の中央を東へ貫く。標高1000メートルを超える山々から流れ落ちた水が、谷を削り、町を作った。その扇頂部に発達した谷口集落が、かつての青梅宿だ。
江戸時代、青梅街道の宿場町として栄えたこの地には、良質な水と、旅人たちの需要があった。酒造りが根付くには、この二つが必要だった。小澤酒造は、その時代から今まで、多摩川の水を仕込み水として使い続けている。山から流れ落ちた水は、地層を通して濾過され、ミネラルのバランスが整う。その水で仕込んだ酒は、硬すぎず、柔らかすぎない。
澤乃井の純米酒は、その水の性質をそのまま映す。米と水と麹だけで作られた純米酒は、余計な味わいがない。ミラノの品評会で純米部門のプラチナ賞を受けたのは、この素朴さが、世界の舌にも通じたからだろう。

晩酌の相棒として、季節の食卓に
届いた1.8リットルの瓶を開けば、青梅の冬の冷たい空気が詰まっているような、透明な香りが立ち上る。グラスに注ぐと、琥珀色の液体は光を通す。一口含めば、米の甘さと、水の清涼感が舌の上で静かに広がる。
冬の夜、温かい鍋の脇に置いて、一杯。春になれば、冷やして、新緑の季節の野菜と合わせる。この酒は、季節ごとに表情を変える。同じ水、同じ米から生まれた酒だからこそ、食卓の季節の移ろいに寄り添う。
手ぬぐいが付いているのも、職人の心遣いだ。酒を注ぐ時、瓶の口を拭う。その手ぬぐいに、青梅の名が入っている。毎日の晩酌の中で、この町の名前を手に感じることになる。
青梅は、古くから綿織物で知られた町だ。青梅縞、青梅綿として、江戸の人々に愛された。その織物の技術も、水の良さも、今も変わらない。澤乃井の酒は、その町の歴史と現在を、一本の瓶に詰めたものだ。
