那珂湊の水産加工、その現場から
ひたちなか市の東側、那珂湊は江戸時代から水戸の外港として栄えた。いまも那珂湊港、平磯港、磯崎港が市内に三つ並び、漁業と水産加工が生業の中心だ。かつてこの町で水揚げされた水産物を加工する仕事が盛んだったが、やがて供給量の減少に応じて、加工原料を輸入物へと移行していった。特に煮だこ加工は、ピーク時には全国シェアの約三分の一を占めていたという。
その水産加工の手仕事の一つが、蒸したこだ。冷蔵で届く、まるごと一尾。約一キログラムの真だこが、すでに蒸されて、そのまま食卓に乗せられる状態で家に着く。

届いてから、食べるまで
冷蔵配送だから、到着日の指定が必要だ。受け取ったその日か翌日には、足を切り分けて、刺身にする。真だこの身は、蒸されることで適度な弾力を保ったまま、甘みが引き出されている。醤油をつけて、そのまま食べるのが一番だ。

残った分は、冷蔵庫で数日は持つ。酢の物に、サラダに、タコ飯に。秋口の晩酌の肴に、足を一本、塩辛く食べるのもいい。蒸したこだから、加熱の手間がない。家の台所は、この町の加工職人の仕事を、そのまま引き継ぐだけでいい。
小ぶりな蒸したこもあり、一人暮らしや少人数の家には向く。また、二尾セットなら、一度に食べきらず、何日かに分けて、その都度新しい状態で食べられる。

工業都市の隣で、漁業の町
ひたちなか市は、勝田側では日立製作所の企業城下町として発展した。だが那珂湊側は、別の産業の歴史を持つ。江戸から続く港町の営みが、いまも水産加工という形で続いている。全国シェアの三分の一を占めたという煮だこの時代は過ぎたが、この町の職人たちは、いまも真だこを蒸す技術を守っている。
寄付して届く蒸したこは、その町の現在の仕事の形だ。観光ではなく、生業。家の食卓に、那珂湊の台所が着地する。