山越えの水が、肉を育てる
海陽町は徳島県の最南端。北に海部山地の険しい山々を控え、そこに降り注いだ雨水が海部川となって太平洋へ開く。この地形が、町の食べ物の輪郭を決めている。
中世、この町は「四国一」の海運で知られた。1445年の兵庫北関の記録には、海部からの木材搬出が年間9450石と記されている。大木を伐り出し、海に近い河口から船で遠く京都まで運ぶ。そうした海運の力があったからこそ、町は繁栄した。だが今、その歴史を体現するのは、むしろ山の側にある。
阿波尾鶏の鶏もも肉は、この町の地鶏だ。山地から流れ落ちる清冽な水、そして四季の寒暖差が大きい気候が、肉に締まりと甘みをもたらす。300gずつ小分けされた冷凍は、家の冷凍庫に着地しやすい。週に一度、一パックを解凍して、塩焼きにするもよし、水炊きの鍋に入れるもよし。骨に近い部分の旨味が、スープに溶け込む。春先の淡い野菜と一緒に煮込めば、季節の手当てになる。

海が近いから、伊勢海老も日常
太平洋に面した海陽町の沿岸は、伊勢海老の漁場でもある。海陽ラー油は、その伊勢海老を塩漬けにして、唐辛子と油に漬け込んだもの。ご飯の上に一さじ、白い湯気の立つ白粥にかけると、海の塩辛さと油の香りが一度に口に入る。朝食の定番になる。冷奴にのせても、温かいうどんの薬味にしても、台所の引き出しに常備しておきたい一品だ。

伊勢海老の大容量は、正月や家族の集まりの時に。殻ごと焼いて、塩をふるだけで、その甘みが引き出される。あるいは味噌汁の具にして、出汁を取る。一尾の海老が、何日分もの食卓を支える。
古い海運の町が、今も運ぶもの
海陽町の返礼品は、決して豪華さを競うものではない。むしろ、山と海に挟まれた小さな町が、季節ごと、日々の食卓に何を置くか。その現実的な選択肢を、丁寧に届けている。中世に木材を運んだ海部川は、今も町を潤す。その水で育った鶏、その海で獲れた海老。町の風土が、そのまま家の食卓に着地する。それが、この町の返礼品の本質だ。