北山地から南の湾へ、水が流れる町
香南市は高知県東部で、北は四国山地の300~600メートルの山々を背負い、南は土佐湾に面している。物部川、香宗川、夜須川が北から南へ流れ、山の水が平野を潤し、やがて海に注ぐ。この水の流れが、米を育て、酒を仕込む。
私がこの町を見るとき、最初に思い浮かぶのは手結港だ。1653年、野中兼山が日本で初めて堀込式港湾として開発した港。江戸時代から続く漁港の機能と、石積みの護岸という歴史が、今も2002年に架けられた跳ね上げ式の可動橋とともに立っている。港町というのは、塩辛い風が日常になる場所だ。その風が、この町の酒に映っている。
塩辛い風を飲む
土佐いごっそう「どろめ祭り」は、毎年4月に開かれる「どろめ祭り」で大杯に注がれる一升酒だ。どろめとは、シラスの別名。春、土佐湾の浅瀬に群れるシラスを祝う祭りで、この酒が飲まれる。つまり、港町の季節の喜びが、この一本に詰まっている。

米の旨味が、塩辛い海の風とどう出会うのか。晩酌の盃に注いだとき、その答えが見える。酒蔵の仕事は、山の水と平野の米と、港町の時間を一つの瓶に閉じ込めることだ。
他の選び方
同じ酒蔵の手から出たおり酒は、米の旨味がとろりと広がる。おり酒とは、澄ませずに酒粕を残したもの。濁りの中に、米そのものの甘さが生きている。冬の夜、ぬる燗で飲むと、米作りの手間が一杯に映る。

海の幸なら、生しらすを選ぶ。100グラム単位の小分けパックで、鮮度が保たれたまま家に届く。塩辛い港町の春の味を、そのまま食卓に。白いご飯の上に、そっと乗せて食べる。酒の肴にも、朝食にも。
山北みかんの露地栽培は、秋から冬にかけて届く。北の山地で育った甘さが、南の湾の塩辛さと対になる。この町の地形そのものが、一つの果実に詰まっている。
