梅の産地が、梅酒を作る理由
田辺市の旧市域は、みなべ町と並ぶ梅干しの一大産地だ。上芳養、中芳養地区の山間部に梅園が集中し、世界重要農業遺産システムにも登録されている。その梅干し工場で毎年生まれる副産物が梅酢。この梅酢を活かし、地元の職人たちが丁寧に漬け込んだのが赤い梅酒だ。

紀州南高梅という品種は、果肉が厚く、香りが高い。梅干しに向く梅だからこそ、梅酒にしても深い味わいが出る。梅酢という、本来は捨てられるかもしれない液を再び活かす。そこに、この土地の仕事の連続性が見える。
晩酌の時間に、ロックで、ソーダ割りで。梅の香りが立ち上る一杯は、田辺の山里で何世代も続いてきた手仕事の結果だ。
同じ梅から、季節ごとの味わい
梅酒は赤だけではない。檸檬梅酒は、地元産のレモンを合わせた爽やかさ。柚子梅酒は、本宮地区で栽培される柚子の香りが加わる。同じ梅から始まりながら、この地域で採れる柑橘類と組み合わせることで、季節ごと、気分ごとの選択肢が生まれる。

梅干しの工場で働く人たちが、梅の仕事の傍らで梅酒も仕込む。その手間と時間が、瓶の中に詰まっている。
山の幸を、小分けで味わう
梅酒だけが田辺の返礼品ではない。本宮地区の茶、龍神地区の椎茸やユズ、そして旧大塔村で栽培されるシシトウ。山間部の農家たちが、転作や特産化を通じて守ってきた作物たちだ。
清見オレンジのドライフルーツやはっさくのドライフルーツは、田辺の柑橘を乾燥させたもの。小分けされた袋は、おやつとしても、お茶請けとしても、毎日の食卓に自然に着地する。梅酒の晩酌の後、翌朝のコーヒーのお供に。そうした日常の中で、この町の農業が息づいている。
