山に閉ざされ、山に支えられた町
早川町は、南アルプスと櫛形山系、身延山地に三方を囲まれた山間地域だ。面積の96%が山林で、町のほぼ中央を富士川の支流・早川が貫流する。この地形が、町の歴史と現在の姿を決めている。
江戸時代には19の村が早川沿いに点在し、焼畑と林業、養蚕、金山開発で生きてきた。戦国期には穴山氏の支配下で黒桂山・保山の金山が開かれ、近世には駿州往還の赤沢宿が身延山と七面山を結ぶ参詣道の講中宿として機能していた。山が資源であり、山が道であり、山が生業だった。
今、町外への唯一の一般道は県道37号だけ。夏季は奈良田より北がマイカー規制、冬季は閉鎖される。この隔絶が、逆説的に、町を守ってきた。人口は935人。昭和31年に6つの村が合併して早川町が発足してから、山の中で独自の暮らしを続けている。
世界最古の旅館で、山の時間を過ごす
西山温泉の慶雲館は、ギネスワールドレコーズに認定された世界最古の旅館だ。源泉100%掛け流しの湯に浸かり、特別客室で一夜を過ごす。この体験は、単なる温泉旅行ではない。

山に囲まれた町で、江戸時代から湯治客を迎え続けてきた旅館に泊まることは、早川町の時間軸に身を置くことだ。奈良田温泉、雨畑湖温泉、光源の里温泉と、町内に複数の温泉が湧く理由は、この山々の地下にある。山が温泉を生み、温泉が人を呼び、人が町を支えてきた。
松本清張の『異変街道』は西山温泉を起点とする山岳地域を舞台にしている。作家たちが何度も訪れた、この町の奥深さを、源泉掛け流しの湯の中で感じることができる。
猟師と山を歩く、もう一つの体験
囲炉裏付き古民家に泊まり、猟師の罠猟に同行する体験は、早川町の現在の生業を直接知る機会だ。焼畑と林業の時代は過ぎたが、山との関わりは続いている。

猟師の罠猟に同行することは、町の人間がどのように山と付き合っているかを学ぶことだ。古民家の囲炉裏で火を囲み、山の話を聞く。これは観光ではなく、山間地の暮らしへの参与である。ファミリー向けの設定は、次の世代にも山の知恵を伝える意図を感じさせる。
人口935人の町で、こうした体験が成り立つのは、山が町の中心にあり続けているからだ。寄付を通じて、その山の時間に身を置く。それが、早川町への向き合い方だと私は考える。