水の郷が育てた、ふたつの顔
南足柄市は、箱根山の外輪山の北東に位置する町だ。狩川を中心に市街地が広がり、北は丹沢山地、南は相模湾からの温暖な海風が吹き込む。この地形が、市の産業を二つに分けた。
一つは、富士フイルムだ。1989年、オランダのチルブルグ市と姉妹都市提携を結んだのは、両市に富士フイルムの工場があったからだ。精密機器の製造には、良質な水が不可欠である。南足柄は国土交通省の「水の郷百選」に選ばれるほど水に恵まれた町。その水が、フィルムやスキンケア製品の製造を支えてきた。寄付すると届くアスタリフトのクリームやメンズスキンケアは、この町の水と技術の結晶だ。朝の洗顔後、手のひらに広げる時、その背後には足柄の清冽な水がある。


もう一つは、農業だ。市域のほとんどはスギを中心とした森林が広がる山間部。その森と、温暖な気候が、茶やみかん、そして果樹を育てた。まつが農園のアイスクリームは、この町の果実を凍らせたものだ。食品添加物を使わず、旬の果物の甘さだけで作られている。夏の午後、冷蔵庫から取り出したカップを開けば、足柄の果樹園の日差しが、舌の上に溶ける。
古い道が、今も生きている
南足柄の歴史は、馬と関所の町だった。古代には高野馬牧が置かれ、江戸時代には矢倉沢関所が足柄峠に立った。足柄街道と呼ばれる道は、今も県道78号として市の中央を東西に貫いている。その道沿いに、人々の生業が続いている。
富士フイルムの工場は、1925年に大雄山鉄道が開通した後、この町に根を下ろした。鉄道と道路が交わる場所に、産業は集積する。同時に、周囲の農地は、その恩恵を受けながらも、独自の道を歩んできた。茶畑、みかん畑、そして果樹園。これらは、箱根の麓の温暖さと、丹沢からの清水があってこそ成り立つ。
アイスクリームという形で届く果実は、単なる食べ物ではない。それは、この町が古い時代から今に至るまで、水と森と人の手で何を育ててきたかを、最も素朴に伝える品だ。子どもが食べるアイスの中に、足柄の季節がある。
