湾に沈む丘陵、その麓の田んぼ
松島町に入ると、まず目に入るのは水平線ではなく、島々だ。奥羽山脈から太平洋へ舌状に伸びた松島丘陵が海に没し、多島海となった松島湾。その湾を囲むように、低い丘陵と平地が広がっている。この地形が、町の米作りを形作っている。
丘陵の斜面には古い石垣が走り、その下の平地に田が開かれている。海に近い土地だからこそ、潮風と湾からの湿度が、稲の生育に独特の条件をもたらす。遠浅の多島海という地勢は、2011年の津波の威力さえ減衰させたほどの地形だ。その同じ湾が、毎日、町の田んぼに微かな塩分と湿った空気をもたらす。
湾の風が育てた、ひとめぼれ
松島産ひとめぼれは、この風土の産物だ。ひとめぼれという品種は、香りと甘みで知られている。だが松島で作られたそれは、単なる品種の特性ではなく、湾の気候が刻み込まれた米になる。

届いた米を研ぐ時、粒の透明感に気づく。炊き上がると、湯気とともに立ち上る香りは、どこか潮の香りを含んでいるようでもある。それは錯覚ではなく、この町の田んぼで育った稲が、毎日吸い上げた湾の空気の記憶だ。
晩秋から冬へ向かう食卓に、この米を置く。白く盛られた一杯は、松島湾を見つめる丘陵の麓で、何ヶ月も風に揺られた稲穂の、最後の姿である。
湾の恵みを、もう一つの形で
同じく松島産のササニシキも、この町の米作りを代表する品だ。ササニシキは、粘りが少なく、粒立ちが良い。寿司飯や、冷たい麦茶漬けに向く米として、古くから愛されている。松島産のそれは、湾の風が育てた、さらに冷涼な食感を持つ。

米だけでなく、この町の水産業も湾の恵みの中心だ。カキは松島の名産として知られ、毎年2月初旬には松島かき祭りが開かれる。だが、ふるさと納税の返礼品として米を選ぶことは、観光地としての松島ではなく、生業としての松島を家に迎えることになる。
絶景の館の海側客室で、松島湾を眺めながら朝食を摂るのも良い。だが、自分の食卓で、毎日、この町の米を食べることは、その景観を、より深く、日常の中に刻み込むことになるだろう。
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